RESEARCH

研究紹介

我々の生活に役に立つ材料の多くは「固体」です。私たちの研究室では、様々な元素を活用した機能性分子を設計・合成し、それを綺麗に並べた固体である「結晶」を作ることで、新しく豊かな機能をもつ分子結晶を創り出しています。結晶は通常内部の原子や分子が固定されていますが、私たちは結晶外部からの刺激や環境の変化に応答して、「結晶内で分子が動く」ことができる固体材料のデザインを研究しています。分子一つが示す運動は、ミクロなサイズであるため、分子運動から得られる効果は小さいです。一方、たくさんの分子が綺麗に並んだ結晶で分子運動を引き起こすと、その運動に由来する効果が飛躍的にintegrationされ、我々が手に取れるスケールまで機能を発揮することができます。分子を結晶中でどのように「並べるか」、さらにどのように「動かすか」は分子の合成の研究に比べて研究がまだ進んでおらず、化学の未踏領域です。

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    結晶中で分子回転をデザイン、さらに固体の発光特性も操る「NHC金属錯体型結晶性分子ローター」

    有機分子と金属から構築する有機金属錯体は、多様多彩な分子構造・電子的環境を作り上げることができます。
    我々は、N-heterocyclic carbene (NHC) を配位子として持つ金属錯体をベースに結晶内で分子回転を半合理的に制御できる新しい結晶性分子ローターを開発しました。また、その結晶が示す発光特性が、分子回転によってコントロールできます。(上左図)
    ごく最近では、嵩高い構造を比較的に作りやすい NHC 化合物の特性を利用し、固体中で回転型運動を示す人工分子の中で、世界最大のサイズを持つ分子を結晶中で回転させることにも成功しています。(上右図)

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    結晶中で隣あう分子が互いに連動して回転する「結晶性分子ギア」

    ギア「歯車」は、マクロスケールにおける動力の伝達や調整に必要な機械部品であります。一方、ナノスケールにおいても、細胞内で「分子モーター」と呼ばれるタンパク質が連動して働くことでギア運動し、機能を発揮しています。これに触発され、ナノスケールでのギア運動を人工分子によって模倣する研究も盛んであり、2016年にはNobel Prize (Chemistry)の受賞対象にもなっております。しかし「分子ギア」はこれまで、主に溶液系で研究されており、分子性結晶内で分子レベルのギア運動を研究した例は非常に少ないです。この理由は、溶液系では分子が比較的自由に運動・回転できるのに比べて、分子が密にパッキングした結晶内では、分子の回転が制限されるために難易度が非常に高いからであります。
    我々はごく最近、トリアジンに回転部位としてフェニレンを三つ、その末端にかさ高いステーターを導入した分子ローターを設計しました (上左図)。それを結晶化することで分子間が噛み合う構造体(intermolecular clutch stacking structure)を固体中で形成し、隣接する多数のフェニル基が互いに連動した回転型運動(ギア運動)を結晶中で示すことを明らかにしました (上図)。末端の構造および回転部位に様々な分子ブロックを導入することができるため、今後機能性を付与した様々な結晶性分子ギア構造体を作り出せます。

代表的な論文・総説

  1. 1.

    A Steric-Repulsion-Driven Clutch Stack of Triaryltriazines: Correlated Molecular Rotations and a Thermo-Responsive Gearshift in the Crystalline Solid

    Jin, M.*; Kitsu, R.; Hammyo, M.; Sato-Tomita, A.; Mizuno, M.; Mikherdov, A.S.; Tsitsvero, M.; Lyalin, A.; Taketsugu, T.; Ito, H.*

    J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 27512–27520.

    DOI: 10.1021/jacs.3c08909

  2. 2.

    Giant Crystalline Molecular Rotors that Operate in the Solid State

    Ando, R.; Sato-Tomita, A.; Ito, H.*; Jin, M.*

    Angew. Chem. Int., Ed. 2023, 62, e202309694.

    DOI: 10.1002/anie.202309694

  3. 3.

    Encapsulating N-Heterocyclic Carbene Binuclear Transition-Metal Complexes as a New Platform for Molecular Rotation in Crystalline Solid-State

    Jin, M.*; Ando, R.; Jellen, M.J.; Garcia-Garibay, M.A.; Ito, H.*

    J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 1144–1153.

    DOI: 10.1021/jacs.0c11981

  4. 4.

    Solid-State Luminescence of Au(I) Complexes with External Stimuli-Responsive Properties

    Jin, M.* and Ito, H.*

    J. Photochem. Photobio. C: Photochem. 2022, 51, 100478. (Review paper)

    DOI: 10.1016/j.jphotochemrev.2021.100478